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富山家庭裁判所 昭和48年(家)633号 審判

申立人 白井利幸(仮名) 昭三五・五・一一生

右法定代理人親権者父 浅野光二(仮名)

主文

本件申立は、これを却下する。

理由

一  本件申立の要旨

申立人利幸は、昭和三五年五月一一日父浅野光二と母白井扶美との間に出生した婚外子であるが、昭和四一年一月七日父光二より認知され、同日父母の協議により親権者を父光二と定められた。申立人は出生以来父母の許にあつて成長し、現在富山市立○○中学校に在学しており、また今回○○士免許証交付にあたり父浅野の氏で免許証の交付をうけたい希望を有しているので父の氏を称したく本申立に及んだのである。

二  当裁判所の判断

本件記録に添付されている富山家庭裁判所昭和四一年家第四七号子の氏変更申立事件の記録をみると、本件の申立人は昭和四一年一月二一日本件と同様に父の氏を称したいとの理由により子の氏変更の申立をしたのであるが、これに対し富山家庭裁判所は、昭和四一年三月三一日申立人の子の氏変更の申立を許可することは、父浅野光二の本妻の意思に反し、かつ一家の平和を紊す結果となることが明らかであり、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする家事審判法一条の法意にも副わないとの理由によりこれを却下したことが認められ当裁判所においても右の措置は妥当なものであると考えられる。

ところで、本件記録に現われた申立人並びに親権者父浅野光二の各戸籍謄本、当裁判所の調査官の報告書によれば、本件の事実関係は、さきに富山家庭裁判所が昭和四一年三月三一日にした申立人の子の氏変更の申立を却下した審判の決定に摘示している事実関係と本質的に差異はなく、ただ申立人が現在中学校に在学中であつて○○従事者いわゆる○○免許取得に従来から使用していた父の氏を使用することが必要であるとの事情が主要な申立事由であることが認められ、これらの事由も申立人の福祉に全く無関係とはいえないけれども、本件においては依然として父浅野光二の本妻が申立人の子の氏変更に強く反対している事情もあり、また申立人は現在満一三歳の者であつて、独立して子の氏変更の申立をなし得る満一五歳には達していないとしても、自己の氏変更により如何なる結果を招来するものであるかを理解し得る年齢に達しているとみるべきであるところ、本件の申立は、申立人の法定代理人親権者である父浅野光二の一方的な思惑からなされたものであつて、申立人自身が現実の意思として子の氏変更を熱望しているものとは認められず、従つて当裁判所としては、子の氏変更はその子の福祉向上のためにその子の意思をも斟酌してなさるべきものであるとの観点から申立人が独立して子の氏変更の申立をなし得る満一五歳に達した後において改めて本申立をなしその許否を決するのが本件においては極めて妥当な措置と考えられ、現在の事情のもとにおいては本件申立を却下するのが相当であると思料するので主文のとおり審判した次第である。

(家事審判官 野村忠治)

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